青椿の意味を考える

青椿とは便所の別名のことである

昔の言葉でトイレを厠だとか雪隠だとか言ったのはよく知られるところですが
そのうちの一つに青椿(せいちん)という表現があったようです。
そもそもトイレの別名というのは調べればそれこそ何十と種類があって
どんな表現が出てきても不思議のないものではあります。
ただ、やはり機能や構造、でなければアナグラム的な言葉遊びが由来となっていて
それ以外の名詞が使われているものというのは比較的 珍しいように思います。
そこでなぜツバキが便所の別名となり得たのか!?
今回は、この『青椿』という言葉の語源について探っていきたいと思います。

元はと言うとTUBAKI というトイレットペーパーについて書いていたときに
トイレタリーに椿の名を冠する神経に疑問を抱いたのが始まりです。
しかし、調べが進むうちに『青椿』という表現の存在を知り、
更にこの『せいちん』が後になまって『せっちん』になったのだ、とする記述もあり
もしかして実はすごく由緒正しい表現なのでは…!?と思うに至ったわけです。

まぁ、つまりワタクシの第一印象は単に勝手な深読みであるらしい。
己の偏りきった知識と見解について そこはかとなく恥じ入りつつ、
今回はその贖罪をかねて建設的な考察をしてみようという試みです。

便所で悟りを開いてみるテスト

ところで、この雪隠の語源というのはトイレ別名の中でも諸説ありまして
通称・雪隠さん(雪や隠の字を冠する固有名詞にバリエーションがあります)が
『トイレで○○した』という故事に基づくといわれています。
で、『トイレ掃除担当』とかは良いんですが『悟りを開いた』という説があり
子供の頃にその話を聞いて「嘘くせぇな。」とか思ったものなんですけど
史実を得るにつれ、これが実はあながち嘘ではないことを知るようになります。

お寺の主要ゾーンを伽藍と呼びますが、元は寺院内の修行の場を指すようで、
特に禅寺ではトイレも伽藍のうちだったといいます。
実際、トイレの作法というか決まりごとを厳格に示しているお寺もありますし、
修行する場所なら悟りを開いたって何の問題もないというわけです。

有用植物としてのツバキとトイレの関係

…話は椿に戻ります。
その『青椿』ですが、前提として青い花を咲かせる椿というのはありませんし
そういう和名の樹木も知らないので解釈としていくつかの候補が考えられます。

まずは単純に『青々と繁る』というパターン。
文学では『夫木抄(ふぼくしょう)』に青椿と書かれた和歌が掲載されていますが、
そのほかでは特に見られず一般的に浸透している表現ではなさそうです。

ただ、椿は常緑樹なためトイレ考では目隠しに用いた可能性を挙げています。
中には「生け垣にわざわざ椿を選んだとは考えにくい」と言う人もいるのですが
椿はわさわさ繁るので樫などと共に防風を目的として好んで植えられました。
武家では茶花に好まれたこともあり、今でも古い地域に良く残っています。
(椿油は提灯の燃料になり木工細工や刀の手入れにも良かったので実用で植える人や
 散り際に花首ごと落ちる性質があるので打ち首を想起すると嫌う人もいました。)

童謡の『たき火』にサザンカの生け垣を連想させる歌詞がありますね。
サザンカもツバキ科ツバキ属で一部には交配も可能な大変近縁の植物です。

余談ですが、庭木のツバキやサザンカを嫌がる人の多くは
チャドクガ (かなり極悪な毛虫)の存在を挙げるのですが、
悲しいかな、虫を嫌って薬をばんばん使う庭に限って大量発生するのです。
アレは放っておいてもカエルが勝手にどうにかしてくれるものなのです。
ま、カエルや爬虫類が毛虫より嫌な人はどうしようもないんですけど。

さて。椿を選択的にトイレに植えたのであれば、その理由が必要です。
茂みになるから、というのであれば別に常緑樹なら何でも良いわけで
個人的に『便所裏ブッシュ』といえば ヤツデを 強烈にプッシュしたい。
実際 旧家の便所裏にはよく生えてるし。じゃなきゃイチジク(落葉樹だけど)。
ヤツデにはハエの殺虫効果が、イチジクは便秘と痔の薬になったんです。)

昔の人は動植物に精通していましたから、完全な鑑賞目的でなければ
植え付けに関して必ず科学的な動機があります。適当に植えたりしません。

じゃぁ、というので椿の効能を調べたら消臭効果があるということです。
効能は葉っぱにあって花の香りでごまかす、というのではないようです。
そもそも花期みじかいし香りないし。(芳香品種もあるけどごく一部)
実際に市販の消臭剤に抽出成分が使われているようですが
ウジ対策や便秘薬に比べるとキャラ的に少々弱いような…。

こういうときはいったん保留するに限ります。

そもそも、青椿とは何を意味するのか

次に、『青』が違うものを指すケースを考えます。
古典や漢文化が好きな方であれば『東』を思い浮かべるでしょう。
古く中国には東西南北を守る四神という存在があって、
東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武と呼び習わされてきました。
そして風水で青龍は川をつかさどるものであり、水場の神でもあります。
転じて青とは東のこと、そして水にかかわることを表すのです。

ここで、風水というとそれだけで眉をひそめる人がいるのですが
現在のコンビニエントな風水ごっこはともかく、
古代の都市計画においてこのメソッドは科学的に見てかなり合理的な考えです。
たとえば太陽光は朝日と西日で殺菌効果に多少の差がありますが
朝日のほうが効果が高いため、清潔に保ちたい水周りを東に配置するのです。

トイレの別名として東司(とうす)という表現が残されていますが
おそらくこのような経緯によるものではないかと考えています。
一方、この意見と対になるのが西浄(せいじょう)という言葉の存在で
これもトイレを表すのですが、一般に「西の方位にある便所」と解説されます。

どちらも寺院で呼ばれた別称なので言葉の成り立ちには仏教的発想とも無縁ではなく
実際は西に配置される東司や、その逆だってありまして、混乱を極めます。
そもそも「西方浄土」のイメージから転化していて
方角は関係ないという話もありますね。

いずれにせよ、間取りのセオリーを守りたくても守れないジレンマというのは
予算の限られた建築にはつきものなのであります。

それに定着した表現というのは字面を無視して使われることもありますので
『西浄という表現が好きだから東に建てるけど西浄で。』みたいな人がいても
特に問題があるようには思えません。

たとえば、ある会社の本社で取締役の部屋が角にあるから
「役員に呼ばれる」=「角部屋に行く」というスラングが生まれたとして、
支店ではつきあたりにあったとしてもその会社では「角部屋」と呼ぶだろう、
…というような話です。

少なくとも西浄というより東司のほうが周りで知ってる人が多かったのと
ぐぐった結果も東司のほうが断然多かったので
世間的には東司という表現がメジャーらしいことに3000点。

しかし話はここで終わりません。
『青=東』ときたらもう一つ、『=春』もお約束パターンとして外せません。
朝日のイメージが春のあたたかさを感じさせることから比喩となっていて
かつては帝の嫡男である東宮(今の皇太子だね)を、春の宮と呼んでいました。
端的なところでは人生を四季になぞらえて青春・朱夏・白秋・玄冬と言いますね。

そこで『椿』ですよ!木篇に春
おそらく昔はトイレと東は概念としてセットになっていて、
「ちょいと東へ…」みたいに言う表現もあったんだと思うんです。
それがどんどん婉曲化していって椿も連想に加わったんじゃないか、
というのがまきコレの結論です。

しかし最後にもう一つ、中国神話まで話が飛んだ以上
『椿は本当にツバキなのか!?』という考察を抜きに語れません。

なぜなら中国語圏において『椿』はツバキ科ツバキではないからです。
かの地でこの字が センダン科チャンチン を指すことは、植物好きの間では
そこそこ知られている事実ですが、一般にはどんな木か知らない人も多いのでは…。
うちにもフラミンゴって品種のチャンチンを植えてますけど
成長が早すぎてあまり庭木にするような木ではない(どんどん切らないと
結構やばいことになります)ので、あまり街では見ませんかね。

ただのセンダンならよく寺社に植わってるのでご覧になっては如何でしょう。
材も丈夫なので良く使われますが、マホガニーと言った方が通りが良いでしょうか。
春先に淡いピンクの葉を出すとても綺麗な木です。 (ベニカナメじゃないよ。)
葉をもむとニンニクに近いスパイシーな強い香りがあるのですが、
においが強いということは漢方的効能があるということですよ!

…というわけで気になる薬効は!?

センダンの実…漢方名で苦楝子。整腸・腹痛・各種泌尿器系の疼痛に有効。
センダンの皮…漢方名で苦楝皮。虫下し

キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!

これは便所裏に植えて損はなさそうですね!(^_^)
ただ、チャンチンって落葉樹だし株元がすかすかだから目隠しにはならないけどね。
でも元々 見られても気にしないお国柄だし、ま、いっか。

■■■ 補足 ■■■
   結局のところ、便所裏に椿を植えたのかどうかはよくわかりません。
   植えられたとして、それがツバキかチャンチンかも良くわかりません。
   とりあえず近所に数百年の歴史があるような寺がいっぱいあるので
   いずれ訪ねて便所ツバキがあるかどうかを検証したいと思います。


■■■ 追記 2009.09.24 ■■■
   便所ツバキの是非についてリンクされるようになったので当方の見解を。
   (自分で出向いていって説明すればいいのかもしれないけど
    はてな系とかで締め切りすぎてたりすると弁明のしようがないので)
   
   いろいろ資料を当たった人が便所の別名に「青椿」という表現があると知って
   便所の目隠しに椿を植えたと事実のように書いているのを見かけるのですが
   少なくともまきコレでは不確定事項として肯定も否定もしません。
   現在まで信頼できる文献・情報源からの確証を得ていない、という意味です。
   
   ただ、本文中にも書きましたがツバキ科の植物には毛虫が出るので
   自分が古い時代の人間なら便所裏にツバキなんてまっぴらごめんです。
   チャドクガは、虫嫌いが見たら確実に気絶するボリュームで密生し、
   うっかり枝先に触れようものなら一斉に地面にばらばら落ちてきます。
   さながら米特殊警察SWATのザイルによるビル降下みたいな感じですよ。
   
   しかもこれ猛烈にかぶれるし、孵化後の皮など生体でなくても被害があり
   一度毒針が刺さると全部抜ききるまで二次被害が広がるという代物です。
   その年の天候次第では年に何度も発生するしね。
   こんなものの隣でケツを丸出しにするなんて無理ずら…。


■■■ 追記 2009.09.25 ■■■
   個人的には便所にツバキはあり得ないと思っているんですが、
   断片的な関連情報があちこちに出てくるのは何故かなーと考えて
   便所臭いというか妙な発酵臭がする木のことを思い出しました。
   
   ツバキ科の植物でヒサカキというのがありますね。
   神棚に飾る榊の仲間で、東日本だと榊は育たないので実際にこれを榊とします。
   で、そのヒサカキとかさらにその仲間のハマヒサカキという木がありまして
   その花がこれまた猛烈に臭いわけですよ。
   近づいたら匂うとか言うレベルじゃなく、周囲一帯に蔓延する感じで。
   つまり「便所に椿」ではなく「ツバキ科の木が便所っぽい」っていう路線が
   あるかも知れないというお話。
   
   いつぞやのナイトスクープでは「塩ラーメンの臭いがする木」として調査してましたが
   一般的にはあまり好ましくない匂いとして扱います。
   結構このセンで展開がある気がしているので、調査が進んだらまた報告します。


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